〜真っ赤な木綿糸〜

お気に入りのブルーのストライプシャツの
袖口のボタンが取れたので、
自慢の本棚の上にある裁縫箱を下ろした。
そして、
糸くずの下に隠れていた一本の針を手に取り、
蛙は思った。

蛙は不器用な人間だ。
もちろん世渡りなんてヘタクソだった。
あるときから、蛙は無理をしなくなった。
あらゆることにおいて・・・。
様々な人と出逢い、様々な人とつながる。
でもそれは、この糸くずに埋もれた針のように、
蛙の針穴には一本の糸も通っていなかった。
蛙は寂しかった。
でも、そんなもんか・・・とも思った。
そうやって蛙は生きてきた。
糸くずの中でたった一人ぼっちで・・・。

小屋の隣の畑一面に蓮華草が咲いた春のある日、
蛙はサラと出逢った。
サラはとにかくよく喋る。
そして、最後にこう言った。
「あなたが持っている宇宙と、
 私が持っている宇宙は、とてもよく似てるわ。
 だから二人は惹かれあうのよ。」
蛙は首を傾げた。

その日から、蛙はサラとずっと一緒だった。
今もずっと・・・。
これからもずっと・・・。
蛙の針穴にはサラという真っ赤な木綿糸が一本通った。

蛙のお気に入りのブルーのストライプシャツの袖口には、
真っ赤な木綿糸でしっかりと縫い付けられたボタンがある。