〜緑色のスイムキャップ〜

そよ子さんは女の子。

でも、
赤色のナップザックと青色のナップザックなら、
迷わず青色のナップザックを選ぶ。
ピンク色には興味はなくて、
ハロー・キティは問題外。
自慢じゃないけど、
スカートは一枚も持っていないし、
髪型はいつものベリーショート。
中日ドランゴンズの大ファンで、
おじいちゃんとよく試合を見に行くらしい。
一週間前に抜けた右上の前歯を宝物箱に隠してあって、
お母さんには、
「ちゃんと屋根からおまじないを言いながら投げたよ。
 丈夫な歯が生えますように・・・って。」
と言ってある。
「ウソは良くないんじゃないかなあ。」
と、蛙が言うと、
「ついていいウソもあると思うの。
 だって、自分の体の一部なんだもの。
 そんな大切なもの捨てられないわ。」って。
とにかく、
そよ子さんは、
誰よりも『そよ子さん』なのだ。

ある日のこと。
毎週日曜日のスイミングスクールに
スイムキャップを忘れていったそよ子さん。
まだ新人の受付のお姉さんは、
貸し出し用の緑色のスイムキャップを、お母さんに渡した。
すると、
そよ子さんはふくれっ面。
ず〜っとずっとふくれっ面。
お母さんが理由を聞いても、
ず〜っとずっとふくれっ面。
不思議に思ったお母さんはスイミングスクールの先生に訊ねてみた。
真っ黒に日焼けして真っ白な歯の
ナカタニ先生はクスクス笑いながら、
「だってほら。緑色のスイムキャップは男の子、
 女の子はみんな黄色のスイムキャップなんですよ。」って。

そよ子さんは女の子。
でも、
そよ子さんは『そよ子さん』。